孔鉉佑駐日大使、日中投資促進機構会員企業とオンライン相互交流
2022/05/03

  4月26日、孔鉉佑駐日大使は日中投資促進機構(JCIPO)の開催する中日国交正常化50周年交流会に出席して講演を行った。佐藤康博JCIPO会長、内山田竹志トヨタ自動車会長、本間哲朗パナソニック副社長、佐藤裕之東芝専務、小林直樹ヤンマー取締役ら日本企業100余社の責任者、大使館の宋耀明経済商務公使、張漪波公使参事官がこれに出席した。講演終了後、孔鉉佑大使は日本経済界とインタラクション交流を行い、中日経済貿易協力、中国の外資政策、両国の青少年交流などの質問に答えた。実録は次の通り。

 【本間哲朗パナソニック副社長の質問】パナソニック副社長・中国東北亜公司総代表の本間哲朗です。日本から中国に戻ったばかりで、いま大連の隔離ホテルからきょうの交流会に参加しています。孔鉉佑大使の素晴らしい講演に感謝します。中国がこの2年間幾多の困難を乗り越えたことに触れ、今後の発展に強い自信を示されましたが、長年中国で仕事をしてきた私としてはまったく同感です。パナソニックは1978年鄧小平先生が訪日された際、松下幸之助氏と深い縁を結んだのをスタートに、44年間中国の近代化に積極的に参加してきました。2021年度のパナソニックの中国事業規模は2・7兆円で、前年より111%増えました。中国に約70社の現地法人を設立し、従業員総数は約5万5000人に上ります。手掛ける分野は在来の家電、住宅設備から電子製品、オートメーション、素材、自動車などの産業へと多様化し、近年は健康産業、新エネルギー自動車などの分野の投資を増やしています。中国が1978年に改革開放を進めてからこれまで、日本の対中協力は80年代の繊維品など労働集約型産業に始まり、90年代から21世紀初めにかけて家電、自動車と同部品、素材などよりハイエンドな製造業に拡大、有名企業が続々と中国市場を開拓し、さらに現在情報通信、金融サービスなどより高いレベルに広がっています。両国の経済・貿易協力は時代の発展につれてたえず転換・高度化してきました。お尋ねしたい、今後日本企業は中国投資を増やすにあたり、どのような分野を重点的に強化すべきだとお考えでしょうか。

 【孔鉉佑大使の回答】中国経済が高度成長から質の高い発展に転換し、さらに今年1月中日間初の自由貿易協定RCEPが発効・実施されたのに伴い、日本企業の対中投資のためのよりよい環境とより多くのチャンスが生まれるでしょう。以下三つの大事な分野に触れたいと思います。

 第一はイノベーションの分野。目下、新ラウンドの科学技術革命と産業変革が加速しており、中国は先進製造業の発展に力を集中し、インターネット、ビッグデータ、人工知能(AI)と実体経済の高度融合を図り、新たな成長ポイントを育て、新たな成長エネルギーを作り上げるでしょう。日本企業はハイエンド製造、インテリジェント製造、バイオ技術などの面で、対中投資と現地での研究開発(R&D)を強化し、中国の産業構造の最適化、高度化の過程で発展をはかることができます。

 第二は省エネルギー・環境保護。気候変動・温暖化に共同で対応し、カーボンニュートラルを実現することは、中日両国の新たな発展のチャンスを生むでしょう。日本企業は省エネルギー・環境保護、グリーン・循環型経済や再生可能エネルギーなどの分野の成熟した技術と経験を利用して、水素エネルギー利用、生物分解性など新しい分野で中国と踏み込んだ協力を進めることができます。

 第三はサービス業。中国経済はすでに質の高い発展段階に入り、サービス業は経済の新たな成長ポイントと対外開放の重点分野になっています。日本が「課題先進国」の強みを生かし、各種の問題を解決した経験を中国に紹介し、金融・保険、医療・ウェルネス、教育・文化娯楽などの分野で対中協力を強化するよう希望しております。

 最後に補充し強調しておきたいのですが、近年、中国企業の対日投資は着実に増え、製造業から通信、インターネット、金融サービスなど新しい分野に広がり、中日の投資関係は次第に双方向の投資を共に重んじるように変わっています。日本企業が今後、引き続き積極的に中国に投資すると同時に、中国企業の対日投資を支援し、中国企業と互いに強みを補完して、共に発展するよう希望しております。

 【佐藤裕之東芝専務の質問】東芝専務の佐藤裕之で、半導体と同製造設備、メモリー業務を主に担当しています。現在対中国ビジネスが会社の総売上高の約3割を占めており、今後も対中協力を増やしていきます。両国企業は中国の国内市場やアジアなどの国際市場で競争することもありますが、互いに補完し協力できる分野も多いと思います。いくつかの具体的なプロジェクトで、双方は日本企業のブランドと技術の強みと中国企業のコスト、人材の強みを合わせて、互恵・ウィンウィンを実現することができます。日本を含む外資企業にとって、中国との協力は非常に魅力があり、中国が一層積極的に投資・法制環境を整備するよう希望しております。お伺いしますが、中国は今後、外資企業、特に日本企業に対しどのような経済政策をとるでしょうか。

 【孔鉉佑大使の回答】世界的感染症が変化し続けるなどのマイナス要因を抱えながらも、安定・好転の持続、超大規模市場、関連産業の全面性など、中国企業の総合的競争の強みは依然外国投資家の人気を集めています。昨年、中国の年間外資利用実績は初めて1兆を突破、1・1兆元に達し、14・9%と急増しました。外資系企業の新設は4・8万社で、23・5%伸び、外資導入の規模と質の「ダブルアップ」が実現しました。われわれは以下五つの面に重点的に取り組みます。

 第一は開放の拡大。われわれは全国と自由貿易試験区の新版外資参入ネガティブリストを速やかに発表し、外資の市場参入を一段と緩和するとともに、関係省庁にネガティブリスト以外の制限措置の整理に取り組むよう促し、「禁止されたもの以外は参入できる」ことを確実にします。「外国投資奨励産業目録」の改訂を進め、外国投資奨励の範囲を一段と拡大して、より多くの外資企業が関連政策による優遇を受けられるようにします。

 第二は投資の促進。われわれは中日など二国間投資促進メカニズムの機能を積極的に発揮させ、各種の関連会議、イベントを開催し、政策措置と投資機会をPR、解説し、日本を含む各国の投資家の中国投資を呼び込みます。引き続き「多国籍企業地方行」などのイベントを実施し、多国籍企業の投資需要と地方の外資導入プロジェクトの効果的なマッチングを図ります。投資商談会など大型コンベンション・プラットフォームの機能を発揮させ、投資促進を強化します。

 第三はサービスの強化。われわれは重点外資企業・プロジェクトを軸に、一対一の追跡サービスメカニズム「直通列車」を整備し、外資系企業が困っている目立った問題の調整・解決に当たります。重点外資プロジェクトの用地などの保障〈後方支援〉度を強め、プロジェクトの早期決着と着工を後押しします。外資企業との対話交流を強化して、業界の動きをつかみ、政策への要求を聞き、外国企業の投資の自信を安定させます。

 第四はビジネス環境の最適化。われわれは外国投資法と同実施条例に合致しない法規規則の整理を加速し、新ラウンドの「制定・改正・廃止」作業を完了します。引き続き外資企業の苦情申立メカニズムの機能を発揮させて、外資企業の苦情で共通する問題の調整・解決を推し進め、外国投資の合法的権利利益の保護度を強めていきます。

 第五はRCEP発効・執行の取り組み。われわれは情勢の変化をフォロー・分析し、各地方が実情に合わせて、的を絞った支援措置を打ち出し、早急に実地に移し効果をあげ、政策執行の能率を高めるよう提案します。そして早期早急に企業に開放と政策のボーナスを確実に享受させ、中日の二国間投資の持続的な伸びを牽引していきます。

 【小林直樹ヤンマー取締役の質問】ヤンマー取締役の小林直樹です。ヤンマーは1993年の中国市場進出以降、上海、山東、江蘇など複数の地方に生産・開発拠点を設け、発動機や農業機械の製造、食糧安全保障、グリーン・環境保護などの分野の協力に積極的に従事してきました。ちょっと視点を変えて、大使に人・文化分野の質問をしたいと思います。大使が先ほどの講演で、双方は両国国民の相互理解を深め、世論のしっかりした支えを築くべきだと言われたことが強く印象に残りました。当社は長年ずっと文化面の公益活動を積極的に進め、これを社会の発展にとって非常に重要なこととみております。お尋ねしますが、今後50年の日中関係の長期的発展を見据えて、双方は両国青少年間の交流をどう強化すべきだとお考えでしょうか。

 【孔鉉佑大使の回答】先ほど講演の中で、中日関係の未来は若い世代に託されており、青少年交流の強化は両国関係の長期的発展にとって非常に重要な意義があると申しましたが、これは中日双方のコンセンサスでもあります。

 中日青少年交流の歴史は古く、多くの友好の逸話も残されています。1984年に3000人の日本の青年が招かれて中国各地を訪問し、100万人近い中国の青年とかつてない規模の大交歓を行いました。翌年、「中日友好の船」で日本を答礼訪問した中国の青年も、各界の温かい歓迎を受けました。彼らの中の多くの人がその後両国の各分野、各業界の中堅となり、また中日友好事業の揺るぎない支持者になりました。

 現在両国で青少年交流を進めるのには多くのプラスの要因と有利な条件があります。各種の世論調査によると、両国青少年の相手国に対する好感度は他の年齢層を明らかに上回り、相互理解を深める強い意志も持っています。これは両国の青少年が育った環境と密接な関係があります。彼らは中日両国の全体的実力と発展水準が次第に近づいている時代背景の下で成長しており、特に日本の若い世代は中国が発展し台頭している現実をより受け入れやすく、中国に対する偏見も少ない。両国の各分野の往来が日増しに盛んになるのに伴い、さらに現代の科学技術・通信手段が一層発達していることも加わって、両国の青少年がお互いを知るためのチャンネルはますます立体的かつ多様になっています。古い世代と違って、若い世代はテレビ、新聞など在来メディアから受ける影響が少なく、インターネットやニューメディアを主な情報源としています。両国の青少年のネット上でのインタラクションは非常に活発で、アニメ、音楽、ゲームなどポップカルチャーの中で豊富な「共通の言葉」を見出しているそうです。

 次の段階の青少年交流では、これら若い世代の新しい特徴に進んで適応し、ネットやニューメディアなどの手段を活用して、少しでも多く青少年の視点に立ち、若者の興味や好みに合わせ、青少年により魅力のある活動を「あつらえる」ようにしなければなりません。同時にまた、若者の個性と創造力を尊重し発揮させ、少しでも多く両国の青少年の自発的交流のために舞台を整え、支援を行い、若い人自身に主役を演じさせるようにしなければなりません。

 相互訪問による交流は、両国の青少年が理解を深め、友情を育む最も直接的で効果的な方法です。感染症の影響を受けて、両国青少年の相互訪問・交流はほぼストップしていますが、感染症が安定し条件が熟したら、双方は早急に青少年の相互訪問・交流を再開し、修学旅行、ホームステイ、サマー・ウインター・キャンプ、社会実践などの交流イベントを積極的に繰り広げて、両国青少年のために顔の見える交流や相手国への実地探訪の機会をより多く作らなければなりません。

 青少年交流は今やっておけば、後世の役に立ちます。両国政府と社会の各界がこれを大いに支援し、共同で投資する必要があります。多くの日本企業が奨学金の設立、青少年相互訪問の実施、交流イベント協賛などの方法で、両国の青少年交流促進のために多くの仕事をしてきました。皆さんが引き続きより多くの支援をされるよう希望しております。

 【内山田竹志トヨタ自動車会長の質問】トヨタ自動車会長の内山田竹志です。大使の日中関係、中国経済の展望、国際情勢など幅広いテーマについてのすばらしい講演に感謝します。大使が3月7日に発表された「国交正常化50周年を記念し、中日関係の新たな展望を開こう」という文章で、「双方には、必ず困難を克服し、チャンスをつかみ、新時代の中日関係のよりよい明日を切り開く、十分な勇気と英知があると信じている」と書かれているのに強い印象を受けました。きょうのイベントに参加しているのはみな経済界と企業の関係者です。日中の経済関係の一段の発展を図るため、日本の経済界にどのような期待をお持ちでしょうか。

 【孔鉉佑大使の回答】両国の経済界は中日経済貿易協力の「バラスト」と「推進器」の役割を十分に発揮し、より高い水準の相互補完と互恵ウィンウィン協力の実現に努めて、グローバルな産業チェーン、サプライチェーンの安定および公平でオープンな貿易・投資環境を共同で守るようにすべきです。われわれは日本経済界に以下のことを期待しております。

 第一は引き続き対中協力の強い自信を持つこと。いまさまざまな困難・試練に直面してはいますが、中国は経済がつねに安定し上向き、中間所得層がたえず大きくなっており、世界最大の消費市場になるでしょう。今後も中国は対外開放を揺るがす堅持しますし、中国との協力を望む国・地域・企業であれば、われわれはすべて積極的に協力を進めるでしょう。同時により大きい度合いでビジネス環境を最適化し、各国の投資家によりよいサービスを提供し、実際の問題を解決します。日本経済界が強い自信を持ち、チャンスを逃さず、中国の発展プロセスに深く関わり、対中経済・貿易協力を一段と拡大するよう希望しております。

 第二は現地化を加速し、実際の社会問題の解決に参画すること。中国は魅力にあふれるが、競争の激しい大市場であり、日本企業の中国における経営と人材の現地化が相対的に遅れ、ビジネス経営の自主性が限られていることは、急速に変化する市場環境と激しい市場競争に迅速、柔軟に対応するうえでマイナスです。日本企業が中国の実情に合わせて、対中経営戦略を積極的に見直し、現地の経営管理、技術およびサービス人材を養成し、中国の新たな問題の解決に参画し、新たなニーズを満たして、中国でよりよくビジネスを展開するよう希望しております。

 第三は中国企業との正常な協力関係を揺るぎなく守ること。一部の人は中国の発展を断つために、下心を持ってイデオロギー対立を造り出し、いわゆる「中国の脅威」を捏造し、技術、経済に係わる議題を安全保障化し、はては「経済安保」の名目で対中「デカップリング」を図っています。経済のグローバル化時代に、世界市場を無理に分割し、グローバルな産業チェーン・サプライチェーンを切断すれば、必ず一人が傷つき皆が傷ついて、もともと新型コロナウイルス感染症の深刻な影響を受けている世界経済にさらに深刻な打撃を与えることになります。日本経済界が市場の法則を尊重し、自身の利益に立って、引き続き中国企業との互恵協力を繰り広げ、産業チェーン・サプライチェーンの安定を守り、共同の発展を実現するよう希望しております。

 【佐藤康博JCIPO会長のあいさつ】

 孔鉉佑大使がご多忙中、本日の交流会に出席して、会員企業と長時間交流されたことに改めて感謝いたします。孔大使の講演は歴史への深い洞察に立って、未来志向の中日関係の構築について率直で、深く、啓発に富む多くの観点と提案が示されており、深く考えさせられます。

 1972年9月29日、田中角栄首相と周恩来総理が北京で「日中共同声明」に調印し、「両国間の恒久的な平和友好関係を確立する」と一致して宣言し、日中両国の国交正常化が実現したことを示しました。その後、双方が1978年に「日中平和友好条約」を締結、1998年に「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」を発表、2008年に「戦略的互恵関係の包括的推進に関する日中共同声明」を発表して、両国関係の基礎はたえず強固になりました。双方の不断の努力により、両国関係はたえず前進し、特に経済貿易分野の協力と人的往来はますます密接になり、日中両国は切っても切れない重要な隣国となりました。

 コロナの影響で、この2年間、両国の人的往来は重大な困難に直面しています。それでも、2021年の日本の対中投資は1・1兆円にも上り、中国はずっと日本の海外投資先の上位を占めています。2021年の日中貿易は38・3兆円に達し、中国は15年連続で日本の最大の貿易相手国になっています。中国にとっても日本は米国に次ぐ第2の貿易相手国です。

 過去50年間、日中関係は曲折を経ながらも。たえず強固になり発展してきました。特に経済レベルで、双方は互いによき師とよき友であり、競争もすれば協力もし、共同で両国関係とそれぞれの経済発展を図りました。これは両国の先輩および本日ご在席の企業を含む各界関係者の共同に努力のたまものです。

 目下世界の状況は大きく変化し、新型コロナ感染症、ロシア・ウクライナ情勢などの要因による不確実性が増大し、さまざまな問題が顕在化して、日中両国とも複雑な試練に直面しています。このような時代の転換点だからこそ、双方は国交正常化後50年の歴史を振り返り、次の50年に向けた新しい時代の日中関係を構築すべきであり、これはわれわれすべての人の共同の使命です。双方が50年間に積み重ねた相互信頼と英知を十分に生かし、共に手を携えて努力すれば、目前の困難は必ず克服できると信じています。われわれどの企業、どの人も責任を回避せず、積極的に行動し、民間の力を発揮し、そのためにたゆまぬ努力を続けなければなりません。日中投資促進機構としても引き続き会員企業の対中業務を支援し、両国の経済貿易協力の促進と未来志向の日中関係の構築に積極的に貢献する所存であります。